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1.授業力向上を実現する「マネジメント」とその諸問題


学校教員の授業力向上に限ったことではないが、何らかの目的を達するためには、計画を立案し、都度の検証を行い、その結果に基づいた対処を行うことが必要である。一般に、マネジメント・サイクルといわれる目標管理手法であり、R−PDCAの1+4の各フェイズからなる。
 R 問題発見・事実認識(事実認識=research)
 P 改善に向けたシナリオ作り(計画立案=plan)
 D シナリオに基づく行動(実行=do)
 C 目標の達成検証・プロセスの履行検証(検証=check)
 A 検証結果に基づく計画修正と手当て(対処=action)
ビジネスの入門書や各種研修でもよく取り上げられており、詳述はそちらに譲ることにするが、授業力向上を目指す取り組みにおいて、それぞれのフェイズでの問題点や障害を整理しておくことは、取り組みを推進する立場の人(管理職や研修担当者)のみならず、自律的な研鑽を目指す教員にとっても有為な経験となるはずである。


授業力向上を目指した組織的な取り組みの代表的なものは、授業アンケートや管理職等による授業観察などの、授業品質管理システムである。(定期的な授業公開や研究授業の開催もあるが、こちらは別稿で扱うことにさせてもらう。)これらの取り組みが、初期の成果を得ない、自律的・継続的な研鑽につながらないというのは、上述のR−PDCAサイクルのいずれかの部分が機能していないことに起因するとみてよい。


アンケートなどの調査は、企業活動においてもマーケッティング(市場調査)などで用いられることから、課題形成の道具と考えられている節があるが、実際には達成検証の機能しか持たない。課題形成は、「問題発見」(存在認知)と「解決に向けたシナリオ策定」という2つのフェイズから構成されるが、どのような授業が実現されるべきかを最終目標として規定し、その構成要素を個々の測定項目として確立しておくという前提条件が満たされていない状態で実施されたアンケートは、問題発見の機能が果たせるだろうか。当事者がその測定項目を受け入れていない状態で、アウトプットとしての集計値を、自身が抱える問題として認識するだろうか。いずれも否である。
これは、管理職や同僚間で行う授業観察にも同じことが言える。A先生がB先生の授業を見て問題の指摘や助言を行っても、二人の授業観が異なっていたのでは、「主観の相違による不当な非難」と受け取ったB先生が自己正当化に終始することすらあり得る。互いに嫌な思いをするぐらいなら、形式的に済ませて授業観察をやったという事実だけを残しておこうという結論に至るのも無理はない。アンケートにしろ、授業観察にしろ、是とする授業像の確立と共通認識化の手段が別に講じられていなければならないという認識の欠落が、R=問題発見フェイズの機能不全を引き起こしているのである。


また、それ自体に意味やメッセージを持たない集計値を見ても、上司や同僚からの問題指摘を受けても、課題解決に向けたシナリオ策定のヒントは得られるだろうか。至極当たり前の論理であるが、何らかの問題を抱えているというのは、?問題を発生させる要因(視点の欠落、誤った方法の無批判な使用など)が存在し、かつ?それを解消する手立てを持たなかったということに他ならない。
前者は、アンケートや他者評価を機に当人の意識的努力と習慣化という段階を経て解消される可能性があるが、後者については外部からの知見導入が不可欠である。模擬試験の結果や、教師からの指摘により、ある科目の成績が志望校合格に不足していると指摘されても、生徒の自助努力だけで学習方法の改善や意欲の向上が実現するわけでないのと同じである。勝算のあるストーリーと共に提示されない問題指摘は、むしろ、被評価者の自己肯定感を奪い、後ろ向きの姿勢を作り出すことにもなりかねない。これこそが、P=シナリオ策定のフェイズにおける機能不全の正体である。


組織的な授業力向上のためには、アンケートや授業観察といった制度運用は達成検証の機会を担保するものに過ぎないと認識した上で、問題発見のためのモノサシ作り(是とする授業像の確立と共有)とシナリオ作成のための外部知見の導入の機会とを、それぞれ別に用意することが必要であることをご理解いただけたであろうか。


さらにC=目標の達成検証・プロセスの履行検証のフェイズと、A=検証結果に基づく計画修正と手当てのフェイズにも問題は存在する。
達成検証の機能を担うべきアンケートや授業観察は、近年では義務化されるなど急速に導入が進んでいるため、機会そのものが存在しないケースはもはや「希少事例」であろう。しかし、その両者の意義を正しく理解した上で、内在する機能限界を補完する手段が講じられているとは言い切れない。
Cフェイズは、直接的には、目指すべき授業像にどのくらい近づけたかという結果としての目標達成を検証する機会であるが、それだけではない。シナリオに基づく実践が行われたかというプロセスの履行検証と、シナリオそのものが適正であったか否かについて妥当性検証を図る機会でもある。

目標達成の検証という概念も、理解に偏りはないだろうか。検証の結果、目標が達成されたか否かを認識するだけに留まり、Cフェイズを終着点としてしまうのは明らかな誤謬である。マネジメント・サイクルは、その名の通り「循環」を描かなければならない。達成検証により不足を認知することが、次のサイクルのR=問題発見フェイズを兼ねるとの認識を持ちたい。
また、履行検証と妥当性検証という2つの側面は認知すらされていない可能性がある。シナリオの履行が不十分であると判定されたら、不十分であった原因を排除し実践を担保しなければならない。達成の不足を可能な限り補おうとする遅滞なき行動こそが、A=検証結果に基づく計画修正と手当てのフェイズである。さらに、シナリオに不備が認められたのであれば、その修正に必要な知見や資源を新たに導入・用意する手立てを講じることになる。これらはとりもなおさず、次のサイクルのPフェイズの一部をなすはずである。
このように、CAフェイズの正しい理解と確実な履行こそが、R−PDCAを文字通りサイクルとして確立する要件である。

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